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キタマクラは理想の寝姿 



 高校教員であったころ、部活動の引率で県外の宿、確かユースホステルのようなところを利用する事がありました。
二段ベッドが数台置かれた生徒の居室に入るなり、ある部員が私に「先生、北の方角はどっちですか」と聞いてきました。
「それがどうしたの」と聞き返すと「キタマクラは悪いと聞いていますので」と答えるのです。
たまたまその部屋のベッドの枕の位置は北ではないことを告げると、安心したような顔をしたのを覚えています。

 海のお魚には「キタマクラ」という変わった名前をもつフグの仲間がいます。
ネットの「WEB魚図鑑」には、その姿写真と生態や食性の説明に続いて次のような説明があります。

 「キタマクラという標準和名は本種を食べると北枕に寝かせられるということから来ているという。本種は筋肉およびフグ科として珍しく卵巣も無毒とされているが、皮膚に強毒をもち、肝臓や腸にも毒がある。そのため多くの都道府県条例では本種を食することを認めていない。」

何ともオトロシイ魚のようですね。
北枕は死を連想させ「エンギでもない」ということになるのでしょうか。
北枕が死と結びつくのは釈迦涅槃図に因むのでありましょう。

 涅槃図は釈迦が娑羅双樹の下で涅槃に入った際の絵図です。
中央には宝台の上に横臥する釈迦、周囲に十大弟子を始め諸菩薩、事物天部や獣畜、虫類などまでが嘆き悲しむさまを描いたものです。
その釈迦横臥の姿を「頭北面西右脇臥」といいます。
頭を北にして顔の面を西に向ければ右の脇腹が下になります。
これが釈迦入滅の場面です。仏教者にとっては最も尊い最期の姿だとされます。

 親鸞聖人の往生の場面も、覚如上人(聖人の曾孫)が御伝鈔の中に「頭北面西右脇に臥したまいて・ついに念仏の息たえおわんぬ、時に頽齢九旬にみちたもう」と格調高くお書きになっています。

 親鸞聖人のあるお手紙に「まづ善信(親鸞)が身には、臨終の善悪をば申さず」とありますが、臨終の床にある聖人を囲んだ有縁の人々は、師の往生を教主釈尊入滅の姿に重ねることで、限りない聖人への敬慕の念を示したものではないでしょうか。

 先月ご紹介した「中興蓮如上人御伝絵抄」本文の最後の段(第66 上人の御往生)にも上人の臨終が「頭北面西」であったことが記されています。

 2月15日は釈迦の入滅の日、日本や中国などの仏教寺院では釈迦の遺徳追慕と報恩のための法要「涅槃会」が勤修されます。
現在では、厳寒を避けて3月15日に行なわれているところもあります。
どこも大きな釈迦涅槃図を奉懸してのお勤めとなります。

 真宗寺院ではこの法要は珍しいのですが、数年前お参りした真宗高田派本山専修寺での涅槃会では如来堂で大涅槃図の絵解きがあり、とても勉強になりました。



                     南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏

                            三宝寺住職 湯川逸紀










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